キャリアインタビュー 吉川美代子さん

2017.9.11

1977年にTBSに入社して以来、報道番組を中心に第一線で活躍してきた吉川美代子さん。女性キャスターという自らのキャリアをどのように切り開いてきたのか、それを実現した仕事への向き合い方をうかがいました。

子供の頃から憧れていた夢が現実に

インタビューに答える吉川美代子さん

アナウンサーを志望するようになったのは、小学生の頃です。ただ、当時はまだ漠然とした憧れでしかありませんでした。その夢がはっきりと輪郭をもったのは、中学生の時。放送部に所属していた私は、TBSラジオの『こども音楽コンクール』という番組に出演したブラスバンド部の紹介を担当したのです。紹介を終えると、番組の司会をされていたアナウンサーが「未来の吉川アナウンサーですね」と言ってくれたのがとてもうれしかったんです。同時に、アナウンサーの仕事を間近で見たことで、アナウンサーになりたいと明確に意識し始めました。

とはいえ、当時、女性のアナウンサーは採用自体がない年もあり、大学時代にはもう一つのなりたい職業であった教師になることも考えていました。そんな折、奇しくも4年生の時に、TBSが女性アナウンサーを9年ぶりに募集していることがわかり、迷わず挑戦しました。多くの志望者がいるなかで狭き門をくぐり、子供の頃からの夢を叶えることができたのはとても幸運でした。

さまざまな経験や努力を惜しまない姿勢が成長の糧に

入社前から、私は世の中の動きを自分の声で伝えることができる報道アナウンサーになりたいと思っていました。でも、入社して5年近くは志望していた報道の仕事ではなく、ラジオのワイド番組のリポーターやインタビュアー、アシスタントなど報道以外のさまざまな現場で経験を積み重ねてきました。

少しでもアナウンサーとして力をつけようと、誰よりも早く出社して発声練習をしたり、通勤中には車窓からの景色を実況中継する練習をしたりと、努力を怠りませんでした。報道への理解を深めるため、仕事の合間に先輩のニュース番組の見学などもしていました。また時間ができると美術鑑賞や歌舞伎の観劇など、教養を深め人間の幅を広げることにも努め、そのすべてが血となり肉となり、仕事にもとても役に立ったと感じています。

当時、大変楽しく同時に大変緊張したのは、週に一度各界を代表する著名人のお宅を訪問し、生放送でインタビューする仕事です。丹下健三さんや瀬戸内寂聴さん、岡本太郎さん、高峰秀子さんなど、超一流の方々からうかがったお話は、今でも私の財産です。入社2、3年目で経験の少ない20代の私が、トップランナーへのインタビューを通じて感じたことは、人の話を聞くのはテクニックではないということ。素直に相手の言葉に耳を傾け、相手が話しやすいように思いやりをもって聞く“人間力”が重要なのだと痛感しました。

プレッシャーのなか、日本初の女性キャスターとして歩み始めた

キャリアインタビュー 吉川美代子さん「未来ある皆さんには、すぐにでも実現できるような小さな目標ではなく、できるだけ大きな志を抱いて、一段一段、キャリアを積み重ねていってほしい。」

今では想像できないかもしれませんが、1980年代前半、全国ネットのニュース番組に女性キャスターはいませんでした。ですから早朝の新しいニュース番組にTBSで初めての女性キャスターとして抜擢された時、喜びの反面、大変なプレッシャーを感じたのを覚えています。

報道局全体を見渡しても、私以外に女性は一人もいない時代でした。ニュースキャスター就任を前に、半年間政治部の記者として国会取材などの経験を積んだのですが、それでも先輩の記者から「俺の原稿を女に読んでもらいたくない」などと、露骨に嫌味を言われたこともあります。どんなに頑張っても女性というだけで認められないのかと、悔しい思いをしたこともたくさんありました。でも、「初めは報道局全体の7割が『女性は必要じゃない』と思っているかもしれない。それでも君が頑張っている姿を見せていい仕事をしたら、半年後には5割になり、1年経ったら7割が『女性でもいい』と逆転するかもしれない」という先輩アナウンサーの言葉が励みになりました。

とにかく目の前の仕事に全力でぶつかった日々でした。あの頃は、24時間365日、寝ても覚めても考えるのは仕事のこと。そんな日々があったからこそ、今の私があるのだと思っています。

伝えることの本質をつかみ、やりがいを実感

念願だったキャスターになっても、最初は自分自身が満足のいくような仕事ができませんでした。というのも、一度でも失敗すれば後がないという緊張感のなかで、最初は原稿をただ間違えないように読み上げることに集中していたからです。

しかし、ニュース原稿の文字を間違えずに音に変換して読み上げるのは、機械でもできること。本来は、ニュースの中身を理解した上で、視聴者に伝えることがキャスターのやるべきことなのです。内容を理解せず音読しただけでは、伝えたいことが視聴者に届きません。

経験を積むにつれ、記者としての現場経験なども生かされてきました。そしてキャスターになって5年ほど経つと、どんなニュースを読むときにも、全体の内容を理解した上で読めるようになったと手応えを感じ始めました。キャスターとしての成長を実感できたのも、その頃からですね。同時に、ニュースを通じて歴史的な出来事や瞬間に立ち会い、それをリアルタイムで伝えるキャスターとしての醍醐味を感じるようにもなりました。

未来を見据えて、一つ一つキャリアを積み上げていく

私はキャスターとしての仕事をまっとうしたいという目標を掲げて、一段一段、階段を登るようにキャリアを積み重ねてきました。しかし、今の若い世代を見ていると、本来は大きな目標の通過点でしかないところをゴールに設定している人が多いように感じます。簡単には手が届かない目標だからこそ、それに向かって努力のしがいがあるのです。

仕事をしてお金をもらうということは、決して楽しいことばかりではありません。理不尽なことやストレスなどもあるかもしれません。それでも、何か目標があれば、さまざまなことを乗り越え、努力し続けた結果として達成感や喜びが得られるはずです。

未来ある皆さんには、すぐにでも実現できるような小さな目標ではなく、できるだけ大きな志を抱いて、一段一段、キャリアを積み重ねていってほしい。その先にはきっと、一回り大きくなった自分がいるはずです。

次回予告

後編は、吉川さんならではの視点で、仕事や日常生活におけるコミュニケーションや、学びのポイントについてうかがいます。

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PROFILE

よしかわみよこ・1954年神奈川県生まれ。77年、早稲田大学教育学部卒業後、TBS入社。『JNNおはようニュース&スポーツ』『JNNニュースコープ』『JNNニュースの森』『CBSドキュメント』など、数多くの番組キャスターのほか、TBSアナウンススクール校長を12年間務めた。2014年にTBSを定年退職後はフリーアナウンサー、コメンテーターとしても活躍。17年4月からは京都産業大学の客員教授に就任。著書に、『ラッコのいる海』(立風書房)、『アナウンサーが教える 愛される話し方』(朝日新書)がある。

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