Adecco Special Interview 前川 泰之 小さな選択の積み重ねが、人生を大きく変える。

2016.6.30

モデルから俳優へ―自分は発展途上だと常に感じていたい

10年ほど前から俳優の仕事を始めるようになったのですが、モデルの仕事をやめることに未練はありませんでした。もともと30歳を過ぎたところで違うことをやりたいと思っていましたし、やるなら役者だろうというのはなんとなく自分の中にありました。

もちろん簡単に決めたつもりはありませんし、新しい世界に飛び込むということでとことん悩みました。でも、どうしても仕事に緊張感がほしかったんです。「もっとこうしたい」「自分にはこれが足りない」、常に自分が発展途上にあることを感じていたかった。2004年にミラノコレクションでショーに立ったとき、以前のような興奮を感じられず、「ああ、俺はもう(モデルの仕事に)満足したんだ」と思ったんです。もちろん、モデルとして完成されたというわけでもないですし、完全・完璧にやりきったわけではありません。それでも、自分の中での満足感を得たことが、俳優の仕事に踏み出す大きなきっかけになりました。

芝居をする醍醐味の一つは、自分とは違う人生を疑似体験できるということです。普通に生きていたら味わえないような、何通りもの人生を体験できるのがすごく楽しい。演じる役を掘り下げ、普段とは違う言動をすることで、こういう自分も出せるのだなという、新しい発見にもなります。

これまでは、お金持ちだったり、社長だったり、女性にモテる人だったり、見た目のイメージでそういう役が多かったのですが、これからはコミカルな役や変わった役にもチャレンジしてみたいと思っています。出演番組の中でも、「痛快TV スカッとジャパン」でやっているダメなパパの役などは、割と素に近いと感じることもあります(笑)。短い時間のドラマですが、とても楽しくやれています。

家族の形は千差万別。それぞれのペースを見つけて

「イクメン」と呼んでいただくこともありますが、あまり特別なことをしている意識はないです。「イクメン」というと、ゆとりをもって、奥さんを支えてあげて…というイメージがありますよね。うちの夫婦はたまたまこういう状況で、必要だからこうしているだけなので、あまり持ち上げられるとこそばゆい感じになります(笑)。

家事の分担も、きちんと決めたことはないです。奥さんが忙しいときは僕が家のことをやりますし、逆の場合もあります。やれるほうがやる、という形ですね。お互いのスケジュールは、アプリを使ったり、カレンダーに書き込んだりして、なるべく共有するようにしています。それを見ながら、毎日「明日仕事だ。じゃあどうしようか」「僕は仕事が午前中で終わるから、子供のお迎えはやる」など、相談して決めています。育児についての当事者が2人いて、お互いの立場で、それぞれができるタイミングでできることを日々、一生懸命やる。もう、毎日バタバタですよ。

家庭内や仕事の状況は人によって千差万別だから、それぞれ自分の仕事と家庭のバランスやペースを見つけるのは本当に大変だと思います。我が家も、日々、環境は常に変わっていきますし、子供が成長して幼稚園に入ったり小学校に入ったりすれば、生活のリズムを一から変えていかなくてはいけないので、常に夫婦のコミュニケーションを大事にしています。

仕事と家庭の両立のポイントは、「ストレスマネジメント」

環境が変わっても仕事に対する向き合い方はずっと変わらないつもりでいますが、やはり家庭を持てば奥さん一人にすべてを任せるわけにはいきません。かといって、家庭のことばかり一生懸命やりすぎて、仕事の時間を削りたくはない。だから、できるだけ仕事も家庭も両方とも100%の力でやりたいと思っています。

そのために大事にしているのがストレスマネジメントです。常に100%で気を張ったままでは倒れてしまいますからね。ちょっとしたことでいいので、子供たちが学校に行っているあいだに映画を見たり、おいしい日本酒を少し飲んだり、そういう自分なりの息抜きの時間をいかに作るかというのが大切です。

仕事の現場では、もちろん楽しいことばかりではありませんし、しんどいことや大変なこともたくさんあります。でも、仕事の中でストレスを抜くチャンスもあるので、そこのプラスマイナスのバランスをうまく取るように心がけています。

20代は仕事に対して自分の要求しかなかったですが、特に40代になってからは自分や周りの雰囲気も考えるようになりました。一期一会の仕事なので、ひとつ一つの現場を丁寧に楽しく、いかに気持ちよく接するか、対応できるか。そして周りとの関わりやサポートを大切にし、自分に与えられた仕事を全力で行う。それらすべて繋がって次があると感じています。どんな仕事でもそうですよね。

努力も手抜きも、見ている人は必ずいる

昨年、NHKドラマ「美女と男子」に出演した際、監督が仰られた「必ず見ている人はいるよ」という言葉が大好きで、常に心に留めるようにしています。もともとは、どんな小さな役でも見てくれている人は必ずいるよ、だからがんばろうという前向きな話ですが、逆に言えば、手を抜いた仕事も必ず誰かに見られているわけです。仕事って楽しいだけじゃないですし、不満は皆さんたくさんあると思います。それでも、努力もマイナス面も見ている人は必ずいるので、常に手を抜かず、持てる力のすべてを出してほしい。それがいつか報われるのだと、僕は思っています。

僕もそうでしたが、新しいことにチャレンジするのは、ものすごい労力と気力を必要とします。大きいことをいきなり始めるのはなかなか大変だし、いろいろ考え始めると行動が遅くなってしまう。だけど、それよりもほんの少しのことを変えるだけで、人生って変わると思うんです。人生は常に選択の連続で、小さな選択肢の分かれ道をどちらに進んだかの積み重ねによって、その後に変わる人生の振れ幅ってすごく大きいのではないかと思います。例えば、髪型を変えてみるとか、女性ならば口紅の色を変えてみるとか、そんなことでも気分は変わるし、何かしら一つ前に進む、何かが変わるわけです。

僕の場合は、仕事の現場に入る前に笑顔を作るようにしています。そして、「おはようございます」の一言をいつもよりちょっと大きく“言っちゃって”みる。恥ずかしいかもしれないけど、妙に気持ちよかったりします。大したことではないけれど、その小さな積み重ねがやがて大きな変化に繋がるのだと信じています。

PROFILE

まえかわやすゆき・1973年東京都生まれ。1993年より11年間、ファッションモデルとして多数のファッション誌、海外ファッションショーに出演。2005年4月にテレビドラマ「夢で逢いましょう」で俳優デビュー。その後もドラマ「半沢直樹」や「美女と男子」、映画『天空の蜂』など数々の話題作に出演し、活躍の場を広げている。2016年度NHK大河ドラマ「真田丸」では、主人公の人生のターニングポイントとなる武将・春日信達を熱演した。妻はフリーアナウンサーの政井マヤ。現在、2児の父親として子育てにも奮闘中。